売上管理ツール

風景翻訳家が、経営ツールをつくった理由

庭をつくる仕事は、数字をつくる仕事でもある。
そのことに気づいたとき、私はHTMLファイルを一枚書き始めた。

風景を翻訳する、ということ

私たちは、目に見えない「価値」を、目に見える「風景」へと翻訳する設計家集団です。

施主の人生という文脈を「庭」という風景にする。伝統や歴史という文脈を「体験」という風景にする。企業の志という文脈を「デジタル」という風景にする。課題と可能性という文脈を「仕組み」という風景にする。土地の記憶という文脈を「再生された自然」という風景にする。

これが風雅伝の仕事の定義だ。どの領域においても、共通しているのは一つの動詞——翻訳する、ということです。

では、経営者の不安という文脈は、何という風景に翻訳できるでしょうか。

私はその問いに対して、一枚のHTMLファイルという答えを出しました。

数字が見えないことの代償

造園・外構の仕事は季節性が強い。春と秋に案件が集中し、夏と冬は薄くなる。単価も幅広く、数万円の剪定から数百万円の外構一式まで混在する。

そういう構造の中で「今年はどうだったか」を正確に把握している経営者は、実は多くありません。売上総額は分かっても、取引先ごとの構成比は? 固定費を差し引いた実質の利益は? 損益分岐点はどこか——。

数字が見えないまま走り続けると、ある日突然「なぜかお金がない」という状況が訪れます。忙しかったはずなのに。受注も悪くなかったはずなのに、と。

忙しさと豊かさは、まったく別の話です。

市販の会計ソフトは高機能すぎる。税理士に任せれば月次の試算表は出てくるが、それは「過去の記録」であって、「今の判断材料」ではありません。Excelで自作するには、関数の知識と根気が必要です。

私が欲しかったのは、もっとシンプルなものでした。

今月、どの取引先からいくら入る見込みか。
固定費を払った後、手元にいくら残るか。
このままのペースで年間目標に届くか。
損益分岐点は、月いくらの売上が必要か。

この四つの問いに、毎朝5分で答えられる道具が欲しかったのです。

「企画設計」という翻訳

風雅伝の五つの設計領域の一つに、企画設計がある。課題と可能性という文脈を、「仕組み」という風景にする——その定義がある。

今回のツール開発は、まさにこれでした。

造園業者が抱える「数字が見えない」という課題。そこには同時に、「見えるようになれば経営判断が変わる」という可能性が隠れている。その文脈を読み、仕組みという風景に翻訳する。それが企画設計の仕事だ。

庭を設計するとき、私はまず「何を削るか」を考える。あれもこれも植えたい気持ちを抑えて、この土地に本当に必要な一本を選ぶ。余白をどこに置くか。動線はどう引くか。季節の変化をどう組み込むか——。

ツールの設計も同じでした。どの機能を入れて、どの機能を捨てるか。どの数字を見せて、どの数字は隠すか——。

引き算の美学

日本の空間美学に「引き算」という概念がある。余計なものを削ぎ落とすことで、本質が浮かび上がります。枯山水の砂紋が美しいのは、そこに花も色も置かないからです。

このツールを設計するとき、私は同じ発想で臨みました。

会計機能はない。在庫管理もない。給与計算も、顧客管理CRMも、見積書作成も、何もない。あるのは売上と原価と固定費と案件と、それらの関係性だけです。

造園・外構業の経営を数字で把握するために、本当に必要なものだけを入れました。それ以外は全部、捨てました。

サーバーも不要。インターネット接続も不要。ブラウザさえあれば動く。インストールも、月額料金も、クラウドへのデータ送信も、一切ない。HTMLファイル一枚という形に行き着いたのは、引き算を突き詰めた結果です。

場所を読む目と、仕組みを設計する目

なぜ造園の設計者がソフトウェアを作るのか、と思う人もいるかもしれない。

私の答えはこうだ。翻訳という行為は、領域を選びません。

庭という風景を設計するとき使う目と、売上管理という仕組みを設計するとき使う目は、同じところから来ています。「何がこの場所の本質か」を問う目。「何を残して、何を捨てるか」を判断する目。「使う人が迷わないためには何が必要か」を考える目。

風雅伝が庭園だけでなく、文化交流、広告、企画、環境という複数の領域に跨って仕事をしている理由もそこにある。どの仕事も、翻訳という一つの行為から派生している。道具が変わっても、態度は変わりません。

最初の一人に届けばいい

このツールを、私は広く売りたいとは思っていません。

数字が苦手で、でも経営をもっとちゃんと把握したいと思っている造園業者に、一人でも届けばいい。毎朝ダッシュボードを開いて「今月はここまで来た」「損益分岐点まであと少し」と確認しながら、現場に向かえる人が増えてほしいと思っています。

庭をつくる人が、自分の経営という庭を、もう少し丁寧に手入れできるようになってほしいと願っています。

数字は敵ではありません。読み方を知らないだけです。

風景を翻訳するように、数字を翻訳する。それが私にできる、もう一つの仕事だと思っています。

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